幸せの感度

いろいろエッセイ
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 分かってはいる。分かってはいるんだけれど、どうもみじめな気持ちになってしまう。今さっきまで録画してあったNHKの猫メンタリーという番組を見ていた。そうしたら、何だかやりきれなくなってしまって、今苦しいんだ。
 この番組は作家とその作家が飼っている猫が出てくるんだ。そして、家の中の様子をカメラで撮る。だから、その作家の生活感というか、どういう暮らしをしていて、どういう感覚で生きているのか、っていうのが伝わってくるんだ。
 それが、それがあまりにもいい暮らしをしていて、幸せそうすぎるんだ。すぎる、と何回言っても足りないくらいで、広くてきれいな家に住んでいて猫が何匹もいる。で、優雅に暮らしている(というように見える)。
 つまり、それを見て星さんは自分とその作家を比べてしまって、みじめな気分になって苦しくなっている、ということなんだね。
 御名答。そして、わたしの書いているこの文章がまるでただのクズみたいで、価値なしって言われているみたいで嫌な気分になってくるんだ。
 わたしの生活が、暮らしがまるで否定されているかのように思えてくる。あんたの生活なんてダメよ、って言われているような気がしてくる。わたしが不本意な生活をしていて、その現状に甘んじてズルズル来てしまっている。そんな風にも思えてきた。
 と、どこからともなくこんな声が聞こえてきた。「星よ、お前は事実をしっかりと見ることができていない。それはあの猫メンタリーに出てきた作家は一握りにもならないその道の成功者なのだ。彼女は選ばれし作家の中のいわば限りなく上のほうに位置している人間なんだよ。だから、彼女がいい家に住んでいても、いい暮らしをしていても、それは当たり前のことであって何も驚くべきことではない。それに、お前はその成功しているトップクラスの作家と自分を比較して落胆しているようだが、お前はまず作家でも何でもないではないか。ただのしがない年金生活者ではないか。だから、気を落とす必要はない。お前はまだ作家としてのスタート地点にすら立っていないのだ。立てていないのだ。だから、経済的に格差があってもそれは当然のことであり、何ら危惧することでもない。さらには、職業が作家に限らず、あれだけの家に住める人間というのはなかなかいないものなのだ。だから、そうした意味でも気落ちする必要はない。そして極めつけは、あの作家であっても必ず何らかの悩みや葛藤はある。どんなに恵まれている境遇であったとしても必ずうまくいかないことの一つや二つ、いやいくつかは必ずある。それをただあの映像の中では切り取って見せていないだけだ。だから、作家の彼女が常に100%今の生活に満足していて、常に幸福感に満たされているわけではないのだ。24時間365日、すべてにおいてどの瞬間においても彼女が幸福であるわけではない。だから案ずるな。案ずるくらいなら横山やすしを思い出せ。」
 最後の方だけおかしかったけれど、その声はわたしを諭してくれた。星よ、案ずるな。横山やすしだからだ、と(ってそんなことも言ってない)。わたしはわたし。作家の彼女は彼女。どっちが幸せとか、どっちがいい暮らしをしているとか、どっちがなんて言うこと自体意味がない。幸福は比較できないし、してはならないものだと思うからだ。ただあるのは、わたしが幸福を感じているか否か。そして、作家の彼女が幸福を感じているようだということだけ。
 わたしは幸福を猫メンタリーを見るまでは感じていた。でも、比べたらそれが遠のいてしまった。でも、遠のかせる必要はない。わたしは幸福なのだから。それはまるでコンビニで買った140円のおにぎりをおいしいと言いながら食べていたわたしが、別の人が2万円の高級フレンチを食べている様子を見て、何だかやりきれない気持ちになるようなことと同じようなこと。でも、コンビニのおにぎりにだって幸福はある。140円には140円なりの幸福があって、2万円の高級フレンチの幸福と比べて劣っているわけでもない。逆に高級なほうに慣れ親しんでいる人は幸せの感度が落ちている、とも言える。140円のおにぎりで幸せを感じることのできる人のほうがもしかしたら幸せなのかもしれないと今、わたしは考えを改めつつある。高級な料理ばかり食べている人はおそらく100円そこらのおにぎりでは幸せを感じることが難しいからだ。だから、わたしはこの140円で幸せを感じる能力を失いたくないものだと思う。幸せを感じる、幸せの感度。これから社会的に成功できるのか定かではないけれど、この感度を保っていけたらと思うのだ。幸せの基準が低ければ低いほどその人は多くの機会にたくさんの幸せを感じることができる。だから、劣等感を感じてやりきれなくなる必要なんてそもそもなかったんだ。つまり、横山やすしなわけだな(最後に意味不明でモヤモヤするなぁ)。

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