トランプ

 今は、2時、の20分前。星さんはお昼ご飯も食べ終わって一息ついたところかな、と思われることだろう。ところがどっこい違うのだ。2時は2時でも午後2時、つまりは14時ではなくて、そのまんまの2時なのである。そう、今は良い子はスヤスヤ眠っている夜中なのだ。夜中の2時にどうして執筆なんかしているかと言えば、話せば長くなるってわけではなくて、ぱっと目が覚めてしまったのだ。何かこのパターン、前にもありましたな。で、パソコンやっちゃって絶不調になりましたとさ、というのが最近ありましたよね。同じ失敗は繰り返さない。そう決意して夜中にパソコンはやらないと固く誓ったので今はPomeraのキーを叩いているというところなのです。Pomeraだったら大丈夫。
 さて、一般的な日本人だったら、いや、世界中の多くの人たちがトランプというものを知っているだろうと思う。トランプって元アメリカ大統領のこと? って違うがな(笑)。わたしが言っているのは、あのババ抜きとか七並べとかやったりする、それからカードマジックにも使われたりするあのトランプのことなのだ。政治の話かと思われた方はあのトランプのことじゃないのかよ、と少々不満かもしれないがお付き合い願いたい。って普通、カードのトランプのことかなと思うのが一般的だとは思うけどね。ま、ご愛嬌。
 わたしの手元には、今、トランプがある。最近、買ったのだ。星さん、トランプゲームか何かに目覚めた? そう言いたいところだけれど、少し違う。わたしの手元にあるトランプは50枚なのだ。4枚足りない。星はトランプを4枚も紛失してしまったかと言えば、そんなことはなくて、この4枚、あることに使ったのだ。クイズ。4枚のトランプを何に使ったでしょうか? これ当てた人すごいと思うな。わたしがあなたの立場だったら、きっと当てられないと思う。それだけ特殊な使い方というか、意外な使い道というか。意外性のあるトランプの使い方。
 答えを言っちゃいます。それはしおりなのだ。
 何でまた星さん、トランプを本のしおりに、つまりブックマークに使おうって思ったの? それはふと高校時代のある同級生のことを思い出したからなのである。
 Mさんという女の子がいた。彼女はものすごく優秀な人で、テストは1年のはじめから3年の終わりまで毎回例外なく1番。それもほぼ満点みたいな点の取り方さえしていて、彼女のことを別世界の人間のように皆思っていた。
 が、Mさんはとてもユニークな人で、当時NHKでやっていたおじゃる丸が好きで、話し方はスローテンポで独特。おちゃめでさえあった。おそらく彼女と言葉を交わしただけでは、とてもではないが東大に毎年2人くらい合格している地元の進学校の主席だとは思わないことだろう。わたしは2年生と3年生で同じクラスだったんだけれど、実にわたしと好対照だった。Mさんが学年の首位を独走するなか、わたしは最下位をひた走りに走っていた。(スポーツ枠で進学してきた人よりもわたしは勉強ができなかった。)けれど、面白いのがわたしの方が勉強ができそうに見られることが多かったくらいなのにまったく振るわなかった点だ。うちの高校ではジンクスがあって、「勉強ができそうに見えない人ができて、できそうに見える人ができない」という法則があったのだ。まさにその法則を体現していたMさんとわたし。
 で、トランプとMさんがどう関係するかと言うと、彼女がトランプを使っていたのだ。そう、本のしおりとして、である。わたしが目撃したのは、彼女がたしか数学の教科書を開いたときだったかと思う。ハートかダイヤかどちらだったかは覚えていないけれど、赤いトランプのカードがちらりと見えた。その時にはわたしはそのことについて何とも思わなかった。あ、トランプをしおりにしてるんだな、くらいにしか思わなかった。それから20年である。ふとトランプが頭に浮かんで、それと一緒に彼女のことも思い出した。と同時に彼女のことが何だかとても気になり出した星である。あれから彼女は第一志望の東大には受かったのだろうか。それすらもわたしはその当時関心がなくて知ろうとさえしなかった。Mさん、どうしてるのかな。わたしは同窓会には一度も出ていないから彼女の消息については一切分からない。
 ふとしたことからトランプが頭に浮かび、そしてそれとたぐり寄せるかのようにMさんのことを思い出したわたしはアマゾンで早速トランプを注文した。まるで彼女がトランプをどんな気持ちで教科書に挟んでいたのか知ろうとするかのように。もちろん、トランプを買ってそれを本のしおりにしたところで彼女の気持ちが分かるわけではない。彼女の気持ちは彼女にしか分からないものだし、それが分かると考えることこそおこがましい。常に高校の主席だったMさんが何を考え、何を思っていたのか。高校のテストで1番に一回もなったことがないわたしに分かるわけがない。でも、推し量って想像してみることくらいはできる。きっと毎回すごい重圧があったんじゃないか。いつ自分が主席から転落してしまうのか不安だったんじゃないか。いろいろと想像してみる。けれど、本当のところは彼女と神様のみが知ることだ。
 トランプを本のしおりとして使ってみた。いい。すごくいい。トランプの紙質といい、厚さといい、大きさといい、まるでトランプはカードとして存在するためではなくて、本に挟まれるために作られたかのようだ。値段が手頃なのもいい。それに54枚もあるし。Mさんがこれをやっていた理由がよく分かる。そして、何だか読書が、勉強が、トランプを本に挟むことで楽しくなりそうな予感がする。トランプの遊び心がほどよくお固い読書や勉強をやわらかく解きほぐしてくれるような、そんな感じがした。
 Mさんが今は何をしていて、どんな暮らしをしているのかわたしは知らない。母にこの話をしたら「もしかしたら意外なことに主婦とかやっているかもよ」と言う。「お料理とかお洗濯が案外楽しくなっちゃってるかも。」もしかしたら彼女はもうすでに結婚していて子どもと旦那さんと楽しく暮らしているのかもしれない。20年。時の流れってすごい力があるなとしみじみ思う。
 おそらくだけれど、今もMさんは自分が読んだり勉強している本にトランプを挟んでいるんじゃないかな。そして、今もトランプの遊び心を忘れることなく勉強を楽しんでいるんじゃないかな。
 わたしの記憶の中ではMさんは高校生のあの時のまま止まっている。そして、教科書にトランプをしおりとして挟んでいる。Mさん、元気にしてるといいな。わたしがクリスチャンになったと知ったらきっと驚くだろうな。
 トランプとMさん。わたしの中でこの二つは今もしっかりと思い出として結び付いている。トランプを見ると、彼女のことをぼんやりと思い出す。

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